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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)87号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第二号証の一(本願の公告公報)によれば、コルゲートフイン型Al熱交換器における多数の穴を有する偏平形状のチユーブ(チユーブ)は、引抜き又は押出し加工によつて成形されていたが、従来は右チユーブ成形のため三〇〇三号Al合金又はこれよりMnの含有量が若干低いアルミニウム合金(両者を「三〇〇三系Al合金」という)を用いていたこと、また、コルゲートフインとして表面にろう材用の被覆層を有し、かつチユーブ材を成形する三〇〇三系Al合金より電極電位が卑となり犠牲腐食効果を有するAl―Zn系合金を心材として使用していたこと、このコルゲートフインとチユーブとをろう付けしてチユーブの孔あき腐食を防止していたこと、右三〇〇三系Al合金は耐食性にすぐれているが、加工速度は純アルミニウムの約三分の一であるため、三〇〇三系Al合金を用いてチユーブを製造するとコスト高となること、また、チユーブ用材として三〇〇三号系Al合金に代えて純Al系の一〇五〇号Al合金又はこれに組成が極めて近い合金(一〇五〇号系Al合金)を用いると、加工速度は速いが、電位がコルゲートフインより卑となるため、耐食性の点で劣つていたこと、本願第一発明は、耐食性、加工性のいずれをも備えたチユーブを製造することを課題として、Cu〇・二ないし一%を必須成分として含有し、これと不可避的不純物を含有するAl(地金)との合金、すなわちAl―Cu系合金を用いることにより、三〇〇三号系Al合金の電位に近い電位を得て、前記心材より貴の電位を保ち、三〇〇三号系Al合金と同等の耐食性を有し、かつ純Al地金系の一〇五〇号系Al合金と同程度の加工速度で押出し加工されるチユーブを得ることができたものであることが認められる。

しかし、本願第一発明の特許請求の範囲に記載された「避けることができない不純物を含有するアルミニウム合金」(不可避的不純物含有Al(地金))が一〇五〇号系Al合金を含むものであることについては当事者間に争いがないが、右合金がこれに限定されるものと解することはできない。すなわち、Al(地金)を製造する場合、Al純度を高めようとしても、これに微量のCuのほか、Si、Fe、Mn、Mg、Cr、Zr、Ti等の金属元素が不純物として不可避的に含有されるものであることが、本出願前において、当業者間の技術常識として知られていたことは当事者間に争いがないところ、本願第一発明の特許請求の範囲中の前記記載のみでは含有される不可避的不純物の組成割合は明確ではなく、成立に争いのない甲第六ないし第九号証によれば、JIS規格のAl(地金)としてもこれら不可避的不純物を含むものは、一〇五〇号系Al合金に限られないこと、Al熱交換器のチユーブに一〇五〇号系Al合金以外のAl(地金)が用いられていることが本出願前当業者間で周知であつたことが認められ、また、前掲甲第二号証の二の本願公報の発明の詳細な説明の記載によれば、本願第一発明は、三〇〇三号系Al合金及び一〇五〇号系Al合金のそれぞれを用いるチユーブ製造方法についての改良に係るものであることが認められるところであり、かように、本出願前における当業者間における周知の事項及び本願公報の記載によるも、本願第一発明の不可避的不純物含有Al(地金)が一〇五〇号系Al合金のみを指すものと限定的に理解することは困難であるというべきである。

(このように、本願第一発明において、チユーブ成形に用いられるAl合金がCuと一〇五〇号Al合金により組成されるものに限定されないのであるが、審決もCuと一〇五〇号Al合金により組成されたAl合金について容易想到性を判断しているので、以下においても審決の判断に即し、右の点の容易想到性を検討することとする。)

三 取消事由(1)について

1 引用例1及び2の記載内容が審決摘示のとおりであること、引用例1に記載された一〇五〇号Al合金と引用例2に記載されたAl合金を比べると、両者はCuの組成を除き、Al合金として組成範囲が重複していること自体は当事者間に争いがなく、また、前記のように、本願第一発明の「避けることのできない不純物を含有するアルミニウム合金」に一〇五〇号Al合金が含まれることも当事者間に争いがない。したがつて、本願第一発明において、チユーブ成形に用いられるAl合金は、Cuと、一〇五〇号Al合金のうちCuの成分比を変えたものが含まれることになり、そうであれば、本願第一発明のAl合金(Cuの組成割合〇・二~一・〇%以下)と引用例2記載のAl合金(Cuの組成割合〇・五%以下)とは組成範囲において重複するものということができる(このことも当事者間に争いのないところである。)。しかして、本願第一発明と引用発明1とは、押出し又は引抜き成形される単層のチユーブ、すなわち多数の穴を有する偏平形状のチユーブと、Al合金からなる心材とろう材被覆層により形成された合わせ材(クラツド材)であるコルゲートフインを、右ろう材被覆層を介してろう付けしたAl合金製熱交換器の製造に関するものであるが、本件において問題とされているのは、チユーブ成形に関する部分である。他方、引用発明2は、右熱交換器において本願第一発明及び引用発明1のコルゲートフインに対応するろう付Al材料に関するものであつて、チユーブに関するものではない。チユーブは押出し又は引抜きにより成形されるから、特に押出し又は引抜き加工性が求められるのに対し、フインの製造にはかかる要請はない。かように、本願第一発明におけるAl合金と引用例2におけるAl合金とは直接の用途を異にするものではあるが、いずれもAl合金製熱交換器製造の用に供されるものであることにおいて変わるところはない。そして、引用例2に「Cuは結晶粒の微細化及び強度向上の両効果を有するが、〇・五重量%を越えると却つて耐食性の劣化がみられるので、〇・五重量%を上限と定めた。他方これらの下限については〇・〇〇三重量%と考えられ、これ未満では前記効果を期待し難い。」との記載があることは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第五号証は、昭和五四年三月一六日に出願され、昭和五五年九月二四日出願公開された「耐食性が良好なアルミニウム合金製熱交換器コアおよびその製造法」に関する公開特許公報(周知例)であるが、その特許請求の範囲には、作動流体通路(本願第一発明及び引用例1におけるチユーブ)の構成について「Mn〇・一~二%、Cu〇・〇一~一%を含み、またはさらにMg〇・一~一%、Ti〇・〇一~〇・五%、Zr〇・〇一~〇・五%、Cr〇・〇一~〇・五%、Si〇・〇五~二%のうち一種又は二種以上の耐食アルミニウム合金」と記載しており、その発明の詳細な説明の項には、「CuもMgと同様作動流体通路の電位を貴にする。含有量が〇・〇一%未満ではこの効果がなく、一%を超えると作動流体通路材の自己腐食を増大させ、また押出性を低下させる。」との記載(三頁左上欄一八行ないし二〇行)があることが認められ、この記載によれば、チユーブ製造に用いられるAl合金中のCuの組成割合を一%以下に押えれば、製造されたチユーブの耐食性のほか押出性を確保することが可能であることが、本出願前当業者間において周知であつたものということができる。そうであれば、Al合金により成形されるチユーブの耐食性と押出性をともに確保することを課題として、引用例1に記載された一〇五〇号Al合金に代え、引用例2に記載されたAl合金、すなわち一〇五〇号Al合金のうちCuの組成割合を変え、その金属の組成範囲が重複するAl合金を採択し、このAl合金によるチユーブ成形を着想することは、当業者にとつて容易になし得るところと認めることができる。

2 原告らは、本願第一発明におけるAl合金は、AlとCuを必須成分とし、他を不可避的不純物とするAl―Cu系合金であるのに対し、引用発明2のAl合金はAl、Cu、のほか、Cr、Zr、Tiをも必須成分とし、他を不可避的不純物とするAl―Cu―Cr―Zr―Ti系合金であつて、本願第一発明の合金とは、必須成分を異にする以上、組成範囲において重複するも両者は合金としては異なる旨主張する。成立に争いのない甲第四号証(引用例2)によれば、引用発明2の特許請求の範囲には、「〇・三重量%以下のMn及び〇・五重量%以下のCuを必須成分として含む他、Cr、Zr、Tiよりなる群から選択される少なくとも一種を〇・〇五~〇・三重量%、他二種を〇・三重量%以下含み、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とするろう付用Al材料」と記載されていることが認められ、他方本願第一発明におけるチユーブ製造用Al合金は「〇・二~一・〇%の銅と避けることのできない不純物とを含有するアルミニウム合金」であることは前記のとおりである。しかして、本願第一発明では、右のように不可避的不純物を含有するAl合金において、Cuの組成割合を「〇・二~一・〇%」とすることによつて耐食性及び押出性を確保しようとするものであり、Cu以外の他の不可避的不純物を必須要素として意識的に組成割合を増加させることによつて右のような効果を得ようとしているものではなく、他方引用例2及び周知例はCu自体の組成割合とこれによる耐食性、押出性の確保との関係について開示しているものであり、しかも右の効果に関する開示はCu以外の不可避的不純物を必須要素とし、これとCuと相俟つてはじめて奏せられることを内容とするものではないものと認められる以上、本件に関する限り、Cu以外の不可避的不純物をAl合金の必須要素として組成割合を決定したか否かは合金の同一性を左右するものではないというべきである。

3 このように、本願第一発明において、チユーブ成形に用いられるAl合金であることが争いのないCuと一〇五〇号Al合金について検討しても、右のAl合金を採択することに困難性を認めることはできないから、取消事由(1)は理由がない。

四 取消事由(2)について

原告らは、本願第一発明のチユーブ製造用Al合金としてCuと一〇五〇号Al合金により組成されるものを採択することにより、顕著な効果として、同時にすぐれた耐食性と押出性を得た旨主張する。しかし、前掲甲第二号証の二により認められる本願第一発明のチユーブの耐食性が引用例2及び周知例の記載から予測性があつたことは原告らも争わないところであり(審決の理由の要点7(一))、また、前掲甲第二号証の二によつて認められる本願第一発明のチユーブの加工性も前記三2において認定した周知例の記載から予測が可能であつたものと認められる。そして、本願第一発明のチユーブが耐食性と加工性の効果を同時に奏し得ることも、前記引用例2及び周知例の記載から予測し得るものであり、これをもつて格別顕著なものと認めることはできない。

のみならず、前記のように本願第一発明のチユーブ成形用Al合金がCuと一〇五〇号Al合金に組成されるものに限定されないのであるから、仮にCuと一〇五〇号Al合金により組成されるものに原告主張のような効果を認め得る余地があるとしても、本願第一発明のチユーブ成形用Al合金すべてについて右のような効果を奏し得るものと認めるに足りる証拠はないのである。

五 以上によれば、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき違法も見い出せない。よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める本訴請求を失当として棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨(本願第一発明)は左のとおりである。

〇・二~一・〇%の銅と避けることのできない不純物とを含有するアルミニウム合金を引き抜きもしくは押し出し加工することによつて、多数の穴を有する偏平形状のチユーブを成形し、次にこのチユーブを蛇行状に曲げ加工し、一方、上記チユーブを構成するアルミニウム合金の電位よりも電位が卑となり、それにより犠牲腐食効果を有するアルミニウム合金からなる心材と、この心材の両面に被覆されたろう材被覆層とからなるブレージングシートによつて波形上のコルゲートフインを成形し、前記蛇行状チユーブの平行部間に前記コルゲートフインを取付け、このチユーブとコルゲートフインを前記ろう材被覆層を介して一体にろう付けすることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法

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